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イラン・パレスチナでの殺人事件に対する欧米の反応がこれほど違うのはなぜか

2022年5月17日、イスラエルのジェニン襲撃中にシリーン・アブアクラさんが射殺された現場の供花。(ロイター)
2022年5月17日、イスラエルのジェニン襲撃中にシリーン・アブアクラさんが射殺された現場の供花。(ロイター)
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06 Oct 2022 10:10:19 GMT9
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誰が、どこで殺害された。という問題は、アメリカの主流ニュースメディアやアメリカの政治家たちの、その事件の報道に影響を与えるだろうか。最近起きたパレスチナ人とイラン人の女性2人の悲劇的な殺害事件を比較すると、一見関連性があるようにみえる。

イラン人女性のマフサ・アミニさんは先月、イランの恐るべき通称道徳警察によって、ヒジャブを着用していないとして逮捕された。アミニさんは刑務所で死亡したが、イラン政府は心臓病だったと主張し、アミニさんの家族は彼女が拷問を受けたと主張した。

パレスチナ系米国人のシリーン・アブアクラさん(51)は、5月にイスラエル国防軍の狙撃手によって頭部を撃たれ死亡した。この時、アブアクラさんはIDF・シンベト合同のジェニン襲撃に関してアラブのニュースネットワークで報道していた。アブアクラさんは、ジャーナリストであることがはっきり分かる、見やすい服を着ていた。

アミニさんは22歳で、今まで抗議活動に関係したことがなかったイランの小さな町から来た。テヘランを訪れ、テヘランの駅で兄と一緒にいる時に、ヒジャブを着用していなかったとして拘束された。

イランの道徳警察はイスラエルの諜報機関に似ている。この諜報機関は、ホラー物語の怪物のように、夜中にベッドにいるパレスチナ民間人を捕らえにくることがよくある。どちらも不気味で恐ろしく、無実の人々に死をもたらした歴史がある。

この2つの事件が強調しているように、イスラエルとイランのどちらも、しばしば民間人を殺害する残忍な軍事力がある。イスラエルでは、イスラエル国防軍とシンベトは、政府のアパルトヘイトに抗議する非ユダヤ人を標的としており、犠牲者を「テロリスト」と表現する。イランでは、イスラム革命防衛隊は、抗議活動や社会の混乱に関与する者を標的として、逮捕、投獄、そしてしばしば拷問を行う。アミニさんの運命と同じように、刑務所から出ることのできない人々もいる。

しかし、わずか数ヶ月の間隔で起きたこの2つの事件に対して、米国はどのように反応したのだろうか。

アブアクラさんが殺害されたとき、メディアの大部分がすぐにイスラエルの弁護に立ち、イスラエルの狙撃手によって意図的に殺害されたというパレスチナ人の主張に異議を唱えた。イスラエルは、いつものように、アブアクラさんがパレスチナの「テロリスト」による銃撃によって殺されたと主張した。

議会の何人かの議員は調査を要求したが、その要求の仕方は異なっていた。特定の詳細を知りたがっていた人々がいて、疑わしきは罰せずの原則による恩恵をイスラエルに与えた一方で、イスラエルに責任があると非難した人々もいた。ほとんどの米国主流メディアはアブアクラさんの殺害を報道したが、アメリカにおけるイスラエルの政治的影響力を受けて、不確実性という観点からその事件を表現した。

ほとんどのアメリカ人政治家は、真実や明白な事実に関わらず、イスラエルがパレスチナ人に対して言うことを信じるため、パレスチナ人に責任があるというイスラエルの主張はその非難を和らげた。ジョー・バイデン大統領は説明を求めているが、同政権はイスラエルに断言、主張、プレスリリース、否定により問題をあいまいにする弁解の余地を大いに与えた。

最終的に、典型的なイスラエルのプロパガンダスタイルで、イスラエルはアブアクラさんがイスラエル兵に殺された「可能性が高い」と結論付けた。イスラエル国防軍の軍事法務官事務所は先月、この戦争犯罪において犯人を特定したり起訴したりすることはないと発表した。

一方、アミニさんの死はメディアで大きく報道された。大体においてイランは世界最大のテロ支援国として非難されており、米国、英国、フランス、そしてもちろんイスラエルもその標的となっているからだ。メディアの反応は非常に同情的で、エルサレム・ポストを含むイスラエルの人種差別的なニュースメディアでさえ、「いつか結婚し、大学卒業後に子供を産むという夢を奪われた」と述べてアミニさんの人物像を伝えた。

アミニさんに関する報道は、イスラエルのメディアによるイスラエル人の暴力被害者に関する報道とほぼ同じだった。イスラエルのメディアは常に人間らしさを与えるために被害者の人生の詳細を描写し、対照的にパレスチナ人には「テロリスト」というひとつのレッテルを貼り、読者の同情を引き起こす可能性のある詳細を提供することはない。

イランでは、反体制派がアミニさん殺害に抗議して集まり、アヤトラの弾圧的な宗教的および政治的支配下にある国民に多くの混乱をもたらしている。多くの活動家の間では、残虐な政権の枷を解くためにイラン国民がイランでのインティファーダを引き起こすかもしれないという期待が寄せられている。

対照的に、インティファーダという言葉はパレスチナの政治語彙から消えており、現在ではパレスチナ人が同様の弾圧に対して立ち上がった過去の時代に言及する。代わりに、パレスチナ人は抗議し、不満を訴えてきたが、ほとんど影響を与えていない。

アミニさんに関する報道は、イスラエルのメディアによるイスラエル人の暴力被害者に関する報道とほぼ同じだった。

レイ・ハナニア

アブアクラさんとアミニさんの殺害は、状況の微妙な違いに基づいて殺人が拒否されるか受け入れられるかを示す大学の研究の焦点となるべきだ。

アブアクラさんはアメリカ市民だったが、パレスチナ人でもあり、告発されたのはイスラエルの軍人だった。この事件が解決に至ることはなかった。一方、アミニさんはイランの田舎の村の若い少女にすぎず、その事件はイランのテロ支援政権を弾圧するよう求める欧米からのさらなる呼びかけの基盤となっている。

2つの事件に対する見方の違いは、1つの単純な事実に帰着する。イランを憎むのは簡単だが、イスラエルを憎むのはそう簡単ではない、ということだ。

  • レイ・ハナニア氏は、受賞歴のある元シカゴ・シティ・ホールの政治記者であり、コラムニスト。彼の個人ウェブサイトwww.Hanania.comから連絡を取ることが可能。 Twitter: @RayHanania
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